一級建築士監修:ZEH(ゼッチ)とは?基準や種類、補助金を解説
そこで今回は、ZEHの概要とZEH住宅のメリット・デメリットを解説します。補助金制度についても詳しく紹介しますので、ZEH住宅に興味のある方は、ぜひ参考にしてください。
監修者
- 平野 直樹(ひらの なおき)
- 一級建築士
建築・土木設計や空き地などの土地有効活用業務を経て、有限会社エクセイト研究所を設立。主に不動産コンサルティング、不動産ライター業を営む。
目次 [CLOSE]
ZEHとは?消費エネルギーを実質ゼロ以下にする住宅
ZEH(ゼッチ)とは、Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略語[1]で、断熱性能等の大幅向上と高効率な設備システム導入により、太陽光発電などから創り出すエネルギーと、生活で消費するエネルギーの収支がゼロ以下となる住宅を指します。
日本では2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、住宅の省エネ・省CO₂化に取り組んでおり、ZEHもその取り組みの一つです。国のエネルギー基本計画では、「2030年において新築戸建て住宅の6割に太陽光発電設備が設置されることを目指す」とする政策目標が設定されています[1]。
この目標を達成するため、2025年4月からは、原則として全ての新築住宅・非住宅に省エネ基準への適合が義務付けられます(※)[2]。施行日(2025年4月)以後の工事に着手する建築物の建築が適合義務の対象であり、基準を満たしていないと着工ができません。これから新築の住宅を検討する方は、情報を確認しておきましょう。
ここからは、ZEHについてさらに詳しく解説します。
※エネルギー消費性能に及ぼす影響が少ないものとして政令で定める規模(10㎡を想定)以下のもの及び、現行制度で適用除外とされている建築物は、適合義務の対象から除きます[2]。
省エネ・断熱・創エネの3要素を持つ家
ZEHは「省エネ・断熱・創エネ」の3つの要素を持つ住宅です。各要素には、以下のような条件が求められます。
ZEHの要素 | 内容 |
---|---|
省エネ |
|
断熱 |
|
創エネ |
|
上記の3つの要素には、満たすべき基準が明確に決められています。以下の基準を満たしていないと、ZEHとは認められません[3]。
- 強化外皮基準が0.6~0.4以下
- 基準一次エネルギー消費量を20%以上削減
- 再生可能エネルギー等の導入
- 1~3により基準一次エネルギー消費量から100%以上削減
「強化外皮基準」とは、外壁や断熱材など建物の外側の断熱性能を判断する基準です。基準値は地域によって異なり、東京は0.6以下、北海道は0.4以下に設定されています。各地域の値は、国土交通省の「地域区分新旧表」[4]で確認できます。
「一次エネルギー消費量」とは、家庭で消費される1年間あたりのエネルギーの量です。ZEH認定を受けるには、家庭で消費する暖冷房、換気、給湯、照明といったエネルギーを、再生可能エネルギー等を除き、基準一次エネルギー消費量(設備や地域ごとに定められている標準的な一次エネルギー消費量)で20%以上削減しなければなりません。
「再生可能エネルギー」とは、太陽光や風力、地熱、バイオマスなど自然界に存在し、枯渇せず永続的に利用できるエネルギーを指します。これらによって、消費エネルギーより創り出すエネルギーの量が上回れば、ZEH住宅として認定されます。
ZEHの種類は全部で6つ
ZEHは、削減するエネルギー量や創り出すエネルギー量により6種類に分けられます。それぞれの要件となる基準は、以下のとおりです[3]。
ZEHの種類 | 一次エネルギー消費量 の削減率(※1) |
再生可能エネルギー等 で賄う割合 |
---|---|---|
ZEH | 20%以上 | 100%以上 |
ZEH Oriented | 20%以上 | 条件なし |
Nearly ZEH | 20%以上 | 75%以上100%未満 |
Nearly ZEH+ | 25%以上 | 75%以上100%未満 |
ZEH+ | 25%以上 | 100%以上 |
次世代ZEH+ | 25%以上 | 100%以上(※2) |
ZEHとZEB・LCCMの違いとは?
ZEHと似たような名称として「ZEB」と「LCCM」があります。
ZEBは、Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビルディング)の略語です。ビルや工場、学校などの大型の建物が対象となっている点がZEHとは異なります[6]。
LCCMは、Life Cycle Carbon Minus(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)の略語です。建設するときや実際に住んでいるとき、廃棄するときのすべてにおいて、CO2の収支をゼロ以下にする住宅を指します。
LCCMではライフサイクル全体でエネルギー収支をマイナスにしなければならず、ZEHよりもさらに高いレベルの省エネ性能と環境性能を有しています[1]。
ZEH住宅のメリット
ここでは、ZEH住宅のメリットについて詳しく解説します。
光熱費を抑えられる
ZEHの条件を満たした住宅では、エネルギー効率が高いため電力消費を抑えられ、なおかつ自家発電によって電気も賄えるため、結果的に光熱費を抑えることができます。さらに、自家発電によって創り出された電力が余る場合には、FIT制度により収益を生むことも可能です。
FIT制度(固定価格買取制度)とは、太陽光発電など再生可能エネルギーからつくられた電気を、電力会社が一定価格で一定期間買い取ることを国が約束する制度です[7]。FIT制度では適用条件や買取期間が定められており、例えば住宅に設置されることが多い出力10kW未満の太陽光発電の場合、買取期間は10年間になります[8]。
FIT制度の利用には申請手続きが必要であるため、太陽光発電パネルの設置業者などにご確認ください。
一年中快適に過ごせる
ZEH住宅は高断熱・高気密で室温を一定に保ちやすいため、一年中快適に過ごせます。
室内の温度差が小さくなると結露も抑えられるため、カビや雑菌の発生も少なくなるでしょう。
災害時に備えて電力を備蓄できる
ZEH住宅の多くは太陽光発電などと一緒に蓄電池も設置するため、非常時に備えて電力を確保できます。
蓄電池にためた電力は、電気自動車の充電にも利用可能です。
高価値の資産として評価されやすい
ZEHは、「BELS(ベルス)」という認証制度で高い評価を得られます。BELSとは、国土交通省が制定した住宅の省エネに対する取り組みを評価する指標[6]です。
環境面に配慮した住宅の証であるため、将来、住宅を売却する場合、資産価値を高く評価してもらえる可能性があります。
補助金を受け取れる
これからZEH住宅を建てる人や、建売を購入する人は国からの補助金が受け取れます。ZEH住宅は購入費用が一般住宅と比べて高価格になりやすいですが、補助金によって負担を抑えられることは覚えておくと良いでしょう。また、販売業者が活用できる補助金もあります。
補助金申請などの細かい点については、「▼ZEHの補助金制度と申請の流れ」をご参照ください。
ZEH住宅のデメリット
ここでは、ZEH住宅のデメリットについて詳しく解説します。
間取りや設備に制限がかかる可能性がある
ZEH住宅の基準を満たすためには、間取りや使用する設備に制限がかかる可能性があります。
例えば、屋根に太陽光パネルを設置するためには、屋根の形状やデザインが限定されるでしょう。重いパネルを支えられるよう耐震性能を上げるために、窓の数を減らしたり柱の配置を変えたりするなど、間取りや設備に調整が入るケースも考えられます。
設備導入・メンテナンスに費用がかかる
省エネ機器の設置にかかる初期費用や、設備を長期的に使うためのメンテナンス費用がかかる点は、ZEH住宅のデメリットです。建築コストも通常に比べて高くなる傾向にあります。
ただし、建てた後の光熱費が安くなるため、長期的に見ればコストを回収できる可能性は高いでしょう。
ZEHの補助金制度と申請の流れ
ここでは、補助金制度の概要と申請の流れを以下の順番で解説します。
補助金制度を理解して、費用負担を軽減しましょう。
ZEHの補助金制度
ZEH住宅を購入する際は、条件を満たせば補助金の申請が可能です。申請できる制度はZEHの種類ごとに異なり、補助金を受け取るための条件も変わります[9]。
また、補助金制度は公募期間が定められています。補助金の交付決定は申請の先着順で、期間内であっても早期に受付を終了するケースもあるため、早めに準備を始めるのがおすすめです。
公募期間は制度によって異なりますが、二次受付を行う場合もあります。随時、最新情報をチェックしましょう。
申請の流れ
補助金の申請の主な流れは、以下のとおりです。
- ハウスメーカーを選定
- 設計・補助金の申請
- 補助金の審査
- 着工
- 事業完了・補助金の実績報告書を提出
- 入金
ZEHの種類によって申請時期が異なる点には注意が必要です。
補助金申請の際の注意点
申請を検討する際には、スケジュールや条件などの最新情報を確認しましょう。申請内容や期間、対象となる基準は年度ごとに変わります。
また、予算には上限があり先着順で消化していくために、受付期間は前倒しで終了する場合もあります。そのため、ZEH住宅の補助金を検討するのであれば、早めの準備がおすすめです。
ZEH住宅の建築を依頼する際は、ZEHビルダーやZEHプランナーとして登録されているハウスメーカーを選択しましょう。ZEHビルダー、もしくはZEHプランナーによる建築や施工、販売が補助金の交付要件となっています。また、補助対象が重複する(原資が同じ)事業については併用できません。
なお、基本的には補助金の申請後は設計を変更できず、補助金の交付決定前に着工した場合は申請できません[9]。また、補助対象が重複する(原資が同じ)事業については併用できません。
まとめ
ZEH(ゼッチ)は、消費するエネルギーと、太陽光発電などによって創り出すエネルギーで収支ゼロ以下を目指す住宅です。環境に配慮しているだけではなく、光熱費を抑えられ補助金も活用できるため、経済的にも魅力のある住宅といえるでしょう。
基本的に補助金の申請は、ZEHビルダー・ZEHプランナーとして登録されているハウスメーカーが行います。2025年4月以降は省エネ基準への適合が義務化されるため、補助金の申請を念頭に置き検討しましょう。
- 国土交通省
ZEH・LCCM住宅の推進に向けた取組 - 国土交通省
省エネ基準適合義務化 - 資源エネルギー庁
ZEHの定義(改定版)<戸建住宅> - 国土交通省
地域区分新旧表 - 一般社団法人 低炭素投資促進機構
次世代ZEH+実証事業 公募要領 - 環境省
ZEB PORTAL(ゼブ・ポータル) - 経済産業省 資源エネルギー庁
FIT・FIP制度 制度の概要 - 一般社団法人 環境共創イニシアチブ
令和6年度 環境省戸建ZEH - 一般社団法人 環境共創イニシアチブ
ZEH支援事業 よくあるご質問
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