懐石料理とは?会席料理との違いは?献立の順番・マナーを解説
日本の伝統的な料理である懐石料理を初めて食べる際、「懐石料理とは、どんな料理なの?」「食べるときのマナーはある?」「会席料理との違いは?」などの疑問が浮かぶかと思います。
現代では、懐石料理は和食料理のひとつとして認知されており、「一汁三菜」という料理の構成を楽しむことができます。
この記事では、「一汁三菜」が基本の懐石料理の概要や歴史、マナー、料理の順番、各献立の食べ方について、基礎知識を解説していきます。懐石料理のマナーや食べ方を知っておくことで、安心して料理を楽しめるはずです。ぜひ最後までご一読ください。
目次 [CLOSE]
懐石料理とは?歴史と由来を解説
ここでは、懐石料理の特徴や歴史、由来について解説していきます。まずは基本的な知識について押さえておきましょう。
修行僧が食べていた食事が由来
「懐石」という言葉の由来は、安土桃山時代まで遡ります。当時の禅宗の僧侶たちは、一日一食だけで厳しい修行に励んでいました。食事内容も簡素で、とても満腹になるものではありませんでした。
食事量が減ると、人は体温を上昇させる機能が低下します。そこで、修行僧たちは、冷えた体を温めるために、腹や胸に「温石(おんじゃく)」と呼ばれる温められた石を入れていました。現代で例えると、懐炉(カイロ)のようなものです。
この「懐(ふところ)に入れる石」は「懐石」とも呼ばれ、一日一度の食事は体が温まることから、「懐石」と比喩して呼ばれるようになりました。
千利休により茶会向けの料理になった
懐石料理の誕生は、中国から伝わった「茶礼(されい)」を安土桃山時代に日本風にアレンジした「茶道・茶の湯」が流行したことが起源とされています。ここで活躍したのが、茶道の祖として有名な千利休です。
千利休が開くお茶会(茶の湯)では、お茶をいただく前に軽食が振る舞われていました。これは、「軽く食事を摂っておいた方が、より濃茶を楽しめるから」という理由からです。
懐石料理は体を温めて空腹を和らげるのに最適とされ、禅宗の僧侶が使っていた懐石の役割をなしていました。これが茶懐石(ちゃかいせき)のはじまりであり、懐石料理の起源と考えられています。
「一汁三菜」が基本
懐石料理は「一汁三菜」を基本としたメニュー構成であり、汁物、主食、主菜、副菜が順番に提供されます。はじめにご飯が登場し、次に味噌汁などの汁物、そしておかずが並びます。
小分けで出される懐石料理の品々は、それぞれがちょうど良い量となっており、品数のわりには食べやすいのも特徴です。懐石料理で出てくる料理の順番と食べ方については、後述の「▼懐石料理の順番・各献立の食べ方」をご覧ください。
なお、本来の茶懐石とは異なり、現在の懐石料理は品数が増えている場合もあります。また、アレンジが入り、揚げ物や魚料理、洋風の品などが追加されていることもあります。そのため、懐石料理のみでお腹を満たせる量になっていることも多く、それぞれの料理店のこだわりや特色を楽しめます。
会席料理との違い
日本料理にはいくつもの種類がある中で、とくに懐石料理と会席料理は同音異義語であり、混同されやすい傾向にあります。
ここでは、懐石料理と会席料理のそれぞれについて特徴を解説します。
懐石料理:茶会に出される料理を指す
懐石料理は、主に「一汁三菜」を基本とした質素な料理のことです。「お茶をおいしく味わう」ことを目的とした料理であり、主に以下の順序で料理が提供されます。
- 折敷
- 椀盛
- 焼き物
- 強肴
- 吸い物
- 八寸
- 湯桶・香の物
- 主菓子・濃茶
会席料理:宴会に出される料理を指す
会席料理は、懐石料理にアレンジを加えた形式の日本料理です。「和食のフルコース」と言えば、多くの場合「会席料理」を指すため、懐石料理よりも馴染み深い存在となっています。
会席料理とは、主に大勢の人が集まるお酒の席でのもてなし料理のことであり、品数も懐石料理に比べると多い傾向にあります。お通しからはじまり、ご飯や汁物が後半に、締めには水菓子がデザートとして提供される点も懐石料理との違いです。
特に決まったマナーも不要で、人と人との交流を目的とした場に提供されるものであり、主に以下の順番で提供されます。
- 先付け(お通し・突出し)
- お凌ぎ、前菜
- 椀物(吸い物)
- 向付(お刺身)
- 煮物
- 焼き物
- 強肴
- ご飯・香の物(漬物)・留め椀(汁物)
- 水菓子・甘味
懐石料理の順番・各献立の食べ方
いざ懐石料理を食べに行くとなると、気になるのが各献立の食べ方です。マナー違反などをして、恥ずかしい思いはしたくないですよね。
そこでここからは、基本的な懐石料理の順番や知っておきたいポイントについてまとめます。
- 折敷(おしき)
- 椀盛(わんもり)
- 焼き物
- 強肴(しいざかな)
- 吸い物
- 八寸(はっすん)
- 湯桶・香の物(ゆとう・こうのもの)
- 主菓子・濃茶(おもがし・こいちゃ)
1. 折敷(おしき)
懐石料理で最初に運ばれてくるのが折敷(おしき)です。ご飯、汁、向付(むこうづけ)の3つを載せたお膳が届けられます。いずれも量は少なく、主人による「ようこそおいでくださいました」という“おもてなし”の意味が込められています。
ご飯は必ず炊きたてのものが提供される決まりです。なお、盛り付け方にも流派があり、山型や丸型など異なります。
茶道における汁は、味噌汁を指します。また、元が精進料理であるため、野菜や豆腐など、植物由来の具材が用いられるのが特徴です。
向付の代表例は旬の魚のお造りや刺身です。なお、向付はお膳の配置を表す言葉で、「ご飯と汁に対する向こう側」という意味から名付けられました。
ちなみに、「折敷」とはそもそも器の下に敷くものであり、客は折敷の上で食事を行います。お盆のように、料理を運ぶものではない点が特徴です。
折敷が運ばれてきたら、それを両手で受け取って前に置きましょう。その後、左手で飯椀の蓋、右手で汁椀の蓋を一緒に取ります。汁の蓋は飯椀の蓋にかぶせ、折敷の右側へ置いてください。飯椀と汁椀が横一列になっていれば正解です。
次に汁を一口いただきます。その後、ご飯を一口いただき、あとは交互に口に運びましょう。
向付は盛り付けの左から手を付け、次に右、中央と食べ進めます。白身魚など淡白なものがあれば、そこから食べても大丈夫です。
2. 椀盛(わんもり)
椀盛(わんもり)は懐石料理のメインとも言える品です。塗り椀などの大ぶりの椀に、季節の野菜・肉・魚・麩などを彩りよく盛り付けて提供されます。
椀盛には汁物に加える薬味である吸い口が添えられます。香りが加わることで、より季節の風味を味わえます。
なお、椀盛は煮物椀とも呼ばれますが、料理の種類としてはお吸い物です。イメージとしては「具がたくさん入った汁物」であり、主にすまし汁として提供されます。
まずは左手にお椀を添え、右手で蓋を静かに持ち上げましょう。その後、空中で「の」を描くようにして開けます。蓋は内側を上にして、お椀の右側に置いてください。
お椀は具と汁を交互に食べていきます。すべて食べきったら、両手で蓋をしてください。
3. 焼き物
椀盛の次は、旬の魚を使った焼き物の登場です。具体的な献立としては、若狭焼や西京焼、粕焼、酒盗焼などが挙げられます。お酒のお供としてもぴったりですし、季節感も楽しめる一品となるでしょう。
懐石料理における焼き物の大きな特徴は、ひとつの大皿に人数分の焼き魚が盛り付けられている点です。会席料理の「鉢肴(はちざかな)」のように、一人一皿ではなく、自分が食べる分を取り箸で取り分けていきます。また、次の客に対して「お先に」と言葉を添えるのもマナーとされています。
ちなみに、懐石料理の「一汁三菜」とは、これまでにご紹介した折敷、椀盛、そしてこの焼き物を指します。
焼き魚は、表面の上半身を左から食べていきます。その後、下半身を同じく左から食べていきましょう。中骨が見えてきたら、裏側の身の間に箸を入れて、尻尾側から骨を持ち取り除きます。骨は器の左奥に寄せてください。
懐紙がある場合はそれをかぶせます。残った裏側の身も、表面と同じように左から食べていきましょう。
4. 強肴
強肴(しいざかな)とは、「強いてもう一品勧める肴」という意味を持つ言葉で、「進肴(すすめざかな)」とも呼ばれます。「一汁三菜では物足りない」という場合に頼むもう一品を表しています。
なお、肴とは魚に限らず、主に炊き合わせや酢の物が献立として登場します。いわゆる「酒の肴」といったイメージです。
焼き物と同様に、人数分が大皿に盛り付けられて運ばれてきます。自分が食べる分を取り箸で分け、次の客へ渡していきましょう。
5. 吸い物
折敷からはじまり、吸い物まで来ると懐石料理の一通りの食事は終了です。ここでいったん口を休めるために、さっぱりとした味わいのお吸い物を味わいます。
背の高い小さなフタ付き椀に、梅肉を落とした白湯や、昆布だしなどが少量注がれて運ばれてきます。なお、吸い物は口や箸を清める・改めるという意味で、「箸洗い」または「すすぎ汁」とも呼ばれています。
吸い物は膳の外に置かれます。蓋を開けたら、向付の上(膳の中央)に置きましょう。
6. 八寸(はっすん)
食事を終えた後はゆっくりお酒を楽しみます。そのために提供されるのが八寸(はっすん)で、「酒を交わすための肴(献酬)」という意味があります。
山の幸と海の幸、それぞれで造られた肴が、別々の四角い器に乗せられて提供されます。この器が八寸で、もともと一辺が約24cm(八寸)であることから命名されました。
主側から、海の幸→山の幸の順に八寸を勧められるため、その流れで食べ進めましょう。また、お吸い物のフタは肴の受け皿として使うのがマナーです。
7. 湯桶(ゆおけ)・香の物
いよいよ懐石料理の締めくくりである湯桶(ゆおけ)・香の物です。薄味の湯桶と数種類の漬物が調和し、舌を楽しませてくれます。
なお、湯桶とは釜底に残る米をおこげにし、そこへ熱湯を注いで塩味を付けたものを指します。そのほかにも、米を香ばしく炒り、お湯で煮立てて作る方法もあります。
まずは香物を向付で取り分けます。湯桶を左手に持ち、汁椀には湯のみを入れます。その後、飯碗に残った飯の上に湯をかけて湯漬けを作ります。
湯漬けを食べ終わったら、汁椀と飯碗を紙できれいに拭き取ります。漬物の汁で椀をすすぐこともあります。
汁椀の蓋はもとの位置に戻し、飯碗の蓋は逆さにして上に乗せます。最後に、箸は膳の手前にきれいに揃えます。
8. 主菓子・濃茶
懐石料理ならではの献立としてぜひ楽しみたいのが、最後に出される主菓子と濃茶です。主菓子とは濃茶の味を引き立てる和菓子のことで、練り切りや葛饅頭などが提供されます。
また、抹茶をふんだんに使った濃茶は、本格的な味わいを楽しめます。他の和食ではなかなか出されるものではないので、この機会にぜひご賞味ください。
懐石料理店でのマナー
次に、懐石料理店におけるマナーについてもご紹介します。食べ方や立ち振る舞いなど、和食ならではの礼儀作法があるため、事前に予習しておきましょう。
お箸の使い方
和食は箸で食べるため、箸の正しい持ち方や使い方を知ることは基本的なマナーです。以下は覚えておきたいポイントです。
- 箸先を3cm以上汚さないように注意する
- 箸を置く際は、箸置きやお盆・お膳の縁、または専用の巻き紙や箸袋を利用する
- 割り箸は音を立てずに、できればひざの上で割る
- 箸留めがある箸は、破らずに丁寧に取り外す
- 懐紙は箸の汚れを拭いたり、食べ物の残りを隠したりするのに使われる
- 使い終わった箸は器に乗せない
- 食後は、箸先の汚れを拭き取り、元の位置に戻すか、箸袋に入れる
- 箸袋の先端を下側に折るか結んで、使い終わったことを示す
皿・椀の取り扱い
和食では皿・椀の取り扱いに以下のようなマナーがあります。懐石料理の際にも、注意しましょう。
- 口に運びかけた物は器に戻してはいけない
- 食べかけの物は、噛み跡が見えないよう一口サイズに切る
- 食べ終わった器や蓋は重ねず、蓋は元通りにお椀にかぶせる
- 器を持ち上げる際は、初めは両手で持ち、その後左手だけで持つ
- 平皿や大鉢など、大きなサイズの器は持ち上げない
手皿は禁止
「手皿」という、手を受け皿のように使用する行為は和食のマナー違反です。汁気や醤油が垂れるような料理は、取り皿に移して食べるか、懐紙を使って食べるようにしましょう。
料理を食べる際、顔を近づけて食べる「犬食い」もマナー違反とされているため、気を付けてください。
おしぼりの使い方
おしぼりは手を拭く目的で使用し、顔や首、テーブルなどの他の部分や汚れを拭くのはマナー違反です。汁や醤油をこぼした場合は、おしぼりで拭かず、店員に伝えましょう。
なお、おしぼりは右手で取り、左手に持ち替えて使用して、使った後は内側に折りたたんで元の場所に戻すのがマナーです。
ふすまの開け方・閉め方
ふすまを開け閉めする際の、基本的な動作についても知っておきましょう。
- ふすまの前で正座し、引き手に近い手で5センチ開けて体の半分程まで開く
- 反対の手で体が通る幅まで開き、会釈後、下座側の脚から入室
- 敷居や畳のへりを踏むのは避ける
- 入室後、ふすまの方向に向き、再度正座。体の半分まで閉める
- 反対の手でほとんど閉め、最後に引き手で完全に閉める
- ふすまは一気に動かさず、一呼吸置きながらゆっくりと開け閉めする
座り方
和食や日本料理を食べる際、和室でのマナーも重要です。和室では、床の間を背にしたもっとも遠い席が上座、出入り口近くが下座とされます。入室時は、下座で正座して待ちます。
足がしびれる前に、適切なタイミングで正座を崩すことはマナー違反ではありません。正座を崩す良いタイミングは、乾杯後や食事開始時です。ただし、上半身の姿勢はまっすぐ保ち、美しい座り方を維持することが大切です。
座布団の使い方
座布団にもいくつかのマナーがあります。以下のポイントに注意してください。
- 座布団は相手に勧められた後で座る
- 座布団を裏返したり、踏んだりすることは避ける
- 座布団の位置は勝手に動かさない
- 座る時は糸(房)が上になるようにし、膝を使ってゆっくりと座る
- 立ち上がる際は、座布団を踏まないよう注意する
和室での振る舞い方や身だしなみ
その他、和室での振る舞い方として気をつけたいポイントです。
- 和室への入室時は素足を避け、靴下やストッキングを着用する
- 神様が宿るとされる畳の縁や敷居を踏むのはマナー違反
- 服装は原則自由だが、あまり派手なものや露出が多いものは控える
- 強すぎる香りの香水は避ける
- 器を傷つける可能性があるアクセサリーは身に着けない
まとめ
懐石料理とは、お腹を温める質素な食事から始まり、お茶会用の軽食に変化した後、現在では亭主が客をもてなすためのコース料理として発展してきました。
献立の内容や、最後に出てくる濃茶などは、茶道の雰囲気を味わうのにも最適であり、日本の侘び・寂びを体験できるでしょう。
最低限のマナーは必要ではあるものの、あまり堅苦しくならず、料理を楽しむことも大切です。今回ご紹介した内容を踏まえて、ぜひ懐石料理を楽しみましょう。
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